※お読みになる前に
pikkoroさんからテリミレイラストを頂き、その美麗イラストから生まれたSSです。
小説は全年齢対象ですが、下に展示させて頂いたイラストは肌が露出しておりますのでご注意下さい。
しかし本当に綺麗なイラストですので、是非ご覧頂ければと思います。


姉と再会をした。
死んだと思っていた姉と、数年ぶりの再会だった。
「姉弟水入らずでゆっくりしてよ」
リーダーらしい青髪の男はそう言って、俺たち二人を同じ部屋にした。
なかなか気が利くじゃないか。
好意を素直に受け取る事にして、その夜、俺たちは今までの事を長い時間掛けて話し合った。



月の誓い



姉がガンディーノ城の地下でオカリナを受け取ってからの話は壮絶なものだった。
世界の為、生きる事、学ぶ事に精一杯の人生。
それに比べ、自分の過去話なんて語れるものでは無い。
寧ろ、知って欲しく無いような話ばかりだ。
けれど、俺は聞いて欲しかった。
知って欲しかった。
俺の全てを、この女性に。
そして、貴女の全てもまた・・・いや、それは願ってはいけない事だった。
俺は姉の「一番大切な人」になるには、あまりにも汚れていたから。

姉は昔と変わらず美しかった。その瞳も、髪も、声も。
腰掛けたベッドの端が、二人分の重さで沈む。
手を握り合い、隣で声を聴いて、彼女が生きている事を実感する。
もう、幻じゃなかった。

自分の話が終わり、恐る恐る姉の瞳を見ると、その瞳は涙に濡れ、溢れんばかりの愛情で自分を見詰めていた。
「テリー、ごめんね・・・ごめんなさい」
「やめてくれ、姉さん。俺は、自分が人の道を外れた事を姉さんのせいだと思った事は一度も無い」
「うん・・・うん・・・」
ぽたぽたと滴を落とし、何度も頷く姉は小さかった。
握っている手は細く、幼い頃に見上げていた目線はもう同じ位だった。

姉は涙を拭いて、月の光で溢れる窓の前に立った。
たっぷりと月光を浴びた姉の髪は更に黄金色に輝いた。
その光の中で、また目の前から消えてしまうんじゃないかと思わず自分も立ち上がる。
すると、姉は腰に巻いていた帯を解き始めた。
シュルシュルと聴こえる布ずれの音。次第に露わになる肌。
突然のその光景もまた、何かの儀式のようで魅入ってしまう。
自分の顔が燃える様に熱いのが分かった。
最後の下着まで脱ぎ、振り返った姉は女神のようだった。

「ね、姉さ・・・」

息が止まる。目を逸らそうとしても、逸らせなかった。
月明かりが照らす、彼女の、姉の白い肌。
そして、うっすらと見える無数の傷の痕。

「見て、テリー。これが、オカリナを受け取る前の…私の全てよ」

それは何年も経った、刃物や鞭の痕だった。
脳裏に、引っ張られて行く幼い姉の姿が浮かんだ。

「この装飾品の下にもね、消えない痣があるのよ」

それは、首に、腕に、繋がれた痕だろう。
そう考えると、腹の底から醜い感情が甦って来た。

―――殺してやる。姉をこんな目に遭わせた奴等を、全て―――!

拳を握り、奥歯を噛み締め、自分の呼吸が荒くなる。
「やめてテリー!」
俺の瞳に憎しみの炎が宿ったのが見えたのか、姉は俺を引き戻すように抱き締めた。
自分の薄い服越しに、姉の膨よかな胸が当たり、届く鼓動が不思議なほど自分を安らがせた。
姉の手が伸び、俺の頬を擦ってくれる。
白くて細い親指が何かを拭い取り、俺は初めて自分が涙を流していた事に気付いた。
「もういいの、誰のせいでも無いわ。でも、でもね、」
姉は耐え切れないように背を向け、両手で顔を覆った。

「まだ言ってないの・・・言えないの、みんなに。・・・・・怖くて・・・こんな汚れた身体で・・・わたし・・・私、愛して貰える自信もなくて・・・・誰にも・・・貴方にさえ・・・・・私、怖いのよ・・・」

小さく吐き捨てるように出た言葉。
それでも、俺には明かしてくれた。
閉ざしたい過去の全てを。

姉さん、もしかして姉さんも同じ気持ちなのか?
俺は貴女の、一番の理解者になれる?

もう自分の感情は抑え切れなかった。

「俺は全て受け止める!俺なら、全部・・・!」

姉の肩が震え始める。
小さな嗚咽が聴こえる。

誰のせいでもないと、憎しみを胸にしまい込んだ姉。
そのまま誰にも明かさず、一人で立ち上がった姉。

「綺麗だよ、姉さんは昔から、変わらず綺麗だ」

誰にも明かせられない俺たちの過去。俺たちだけの過去。
オカリナという神器を手に入れる為には、これ程の代償が必要だったのだろうか。運命という言葉だけで済ませてしまえるのだろうか。
結論なんて出ないまま姉を引き寄せ、後ろから抱き締めた。


「ずっと一緒にいるよ」


絞り出した言葉。
幼い頃、姉がいつも言ってくれた言葉を耳元で囁く。
それが俺の答えだった。

俺は右手で生まれたままの姿の姉を更に抱き寄せ、左手で金具を付けたままの腕を取り、その指先に口付けた。

「愛してる―――ミレーユ」

もう二度と離さないと、

月明かりの下で、誓った。









2012.02.18

裸に装飾品のみというシチュエーション、イラストの「ずっと一緒にいるよ」という言葉。
全てがもうヤバすぎて、見た瞬間にストーリーが頭の中に雪崩れ込み、
pikkoroさんの快い了承のもと、小説を書かせて頂きました。
この美しい雰囲気が壊れてないと良いのですが・・・
文章で足りない部分は、是非皆様の妄想で補って頂ければと思います。

補足ですが、最後の
「俺は右手で生まれたままの姿の」で、本来のミレーユを、
「左手で金具を付けたままの」で、奴隷として扱われたミレーユを、
そして「その指先に口付けた。」で、彼女の全てを愛するテリーの姿を表してみました。
表現出来ているかは分かりませんが、他にも細かい設定を入れ込みましたので、
探して楽しんで頂ければ光栄です。

pikkoroさん、本当にありがとうございました!