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―――そして また、翔ける―――


『3人で初日の出見よう!』 言いだしっぺは確かアイツ。
多分・・・いや、絶対に本人は忘れてるだろうけど、無理やり付き合わされた側はしっかり覚えていて、眠い目をこすってまだ暗い中根性で起きるときには、言いだしっぺのウィンリィを恨みたくなったもんだ。
それなのに、故郷を離れてからはこの行事を欠かしたことはない。その時期になると律儀に帰るのはもはや習性だ。

今年はラッシュバレーがオレたちの帰る場所になった。

日の出の時間まで絶対起きるんだ、と言い張るウィンリィは、自分の下宿先にオレたちを連れ込んで部屋の中でピクニックを始めた。手作りの弁当にお菓子、色とりどりのキャンドルを灯して気分はパーティーだ。
食べ物が食えないアルが寂しくないようにと、嫌がるアルを無理やり説得して鎧の内側にタトューを彫り込んだり、手作りのマフラーを巻いてみたりと(オレもぐるぐるに巻かれた)はしゃぎまくったウィンリィは、夜中の3時、ついに撃沈した。
歴史は繰り返す。・・・ちょっと違うか。
いつだって言いだしっぺは必ず途中で撃沈し、オレは眠気と戦いつつアルと一緒に日の出を待つのだ。
すっかり熟睡しているウィンリィをベッドに移して、長い髪が邪魔にならないように苦労して整えながら苦笑した。
世話の焼けるお姫さんだ。キスしたいのをぐっとこらえて、オレはチェス盤を準備しているアルに向き直った。
あと2時間。睡魔との死闘が始まる。






「だーー!!もうダメだ!アイツのまぶたに目描かいてくる!無性に腹立つ!」

「兄さん落ち着いてっ。目を描いたからって根本的な解決にはならないよ」

「わかった。目を錬成してくる」

「・・・いろいろ間違いすぎててどうつっこんでいいのかわからないな」

「うっせーな。もうオレは寝るぞ!目つくって貼り付けるからそれでいいだろ?」

「落ち着いてってば!ほら、時計見て」

アルが指差した壁かけの時計を見たが、焦点があわなくて目をこすった。

「5時だよ」

「マジで?」

目に力をこめて時計を睨み、針が指し示す時間を確認する。脳がそれを実感として認識するまでの間、オレは相当まぬけな顔をしていたんだろう。アルが笑いを含んだ声でもう一度繰り返した。

「5時だってば」

「ほんとだ・・・よっしゃ!起こすぞ!」

オレはベッドで寝ているウィンリィの肩を揺さぶった。

「ウィンリィ、起きろ。起きろって!もう時間だぞ」

「・・・・・・ダメだこりゃ。熟睡してるね」

「毎年毎年学習能力のないヤツ・・・置いてくか」

「後で殺される覚悟があるならどうぞ」

「・・・ったく今年もまたおんぶか?」

「これも『恋人の務め』なんじゃないの?」

ことあるごとに『彼氏の務め』といって、オレに労働させていたウィンリィの口癖をアルが真似る。
思わずアルを睨んでしまったが、オレにだってわかっている。苛立ちをぶつける相手はアルじゃない。コイツだ。
オレは寝ているウィンリィのほっぺたをつかんで引っ張った。
後ろに立つアルがこらえきれずに吹き出す。

「ん・・・」

「起きろ!」

「なによぅ・・・」

「時間だぞウィンリィ」

「エドがおんぶして・・・」

それだけ言うとまた眠りに落ちたウィンリィの肩を強く揺さぶってみたが、無駄だった。
おんぶするのは簡単でも、コートを着せたり靴を履かせたりするのがどんだけ面倒か聞かせてやりたい。
なんつー女。
長いため息をついた後、気合を入れてウィンリィの身支度を始めた。
アルにも手伝ってもらいながらなんとかコートを着せて、首からマフラーを巻き、手袋をはめ、それでもなお眠り続けるウィンリィの足にブーツを履かせた。寝たきり介護だろ。これは。
学習能力がないのはこちらも同じだ。ウィンリィが眠る前に身支度だけでもさせるべきだったのだ。
出発前に無駄な体力と時間を使ったオレは心の中で秘かに決意する。

こうなったら後で彼女の務めをたっぷり果たしてもらおう。クク。

「兄さん声にでてます」

「忘れろ」

無意識に呟いていた言葉をもみ消して、一息つく間もなく自分の身支度も整え熟睡中のウィンリィをおんぶする。
背中にかかる重量は、厚着させただけにずっしりと重い。
フフフ、いつもの数倍はサービスしてもらわないと割に合わねーな。
この呟きもアルに聞こえていたかもしれんが、お互い知らん顔で部屋を出た。

今年のポイントはパニーニャから教わった高台にある民家の屋根だ。
こっそり登れば大丈夫と言い切ったウィンリィに、悪い影響を受けてると思ったのはオレだけじゃないはず。
アルは『ボクはウィンリィを信じるよ』なんて言ってたけど、さりげに目をあわそうとしないあたりが本心を語っていた。
ま、それは置いといて。
暗い道を女抱えて歩くオレらは完全に不審者だ。誘拐犯と間違われてもおかしくない。
明るくなる前になんとしても目的地に着いている必要があった。
夜でも視界の利くアルが先導し、オレたちは駆け足で明け方の街を走った。
闇にまぎれての移動は本物の犯罪者みたいで、走りながら笑った。

「何笑ってんの?」

「こういうスリルならいいもんだなと思ってな」

「うん。そうだね。こういうのならいいな」

命がけでどっかに忍び込んだり、逃げたり追いかけたりってのはできることなら勘弁してほしいもんだ。
ワクワクするような、子供のころのいたずらの延長線にあるスリルならいい。
殺伐とした自分たちの日常を思い出したら、背中の温もりがひどく愛しく思えた。
この存在の近くにあるのは優しい日常だけであって欲しい。オレたちが失くした物を持ち続けて欲しいと切に願った。

「明るくなってきた!」

「急ぐぞ!」

日の出の時間は近い。
小声での会話を終わらせて、オレたちは足を速めた。







目的地の民家の屋上へはアルが錬成した階段を使った。
東の空を見上げ、オレたちはほっと息をついた。
空は白々と明るんではいるが、日はまだ上がっていない。

「間に合った・・・」

アルがほっとしたように呟いた時、背中のウィンリィが身じろぎした。
あまりのタイミングの良さに、疑念がわく。こいつひょっとして起きていた・・・?

「ウィンリィ?」

「ん」

「着いたぞ。もうすぐ日の出だ」

「うん」

声の感じが今起きたばかりの人間のものじゃないことで確信したけど、今更放したくはなかった。
もう少し温もりを感じていたくてオレは気づかないフリをする。
空を見上げれば山の向こうから朝日が姿を見せはじめていた。
寝不足の目には眩しくて、顔をしかめながらもその様子をじっと見つめた。

心が洗われるようだった。それと同時に新たに強い気持ちが湧いてくる。
力が体と心に満ちてくるのを感じながらゆっくりと目を閉じ、神々しいほどの朝日を心にしっかりと焼き付けた。
アルもウィンリィも、それぞれが無言でこの瞬間を受け止めていた。
新しい年が今この瞬間から始まり、新しい自分が始まる。
初日の出を見るたびに、自分が生まれ変わったような気になるのはなぜだろう。

日が山の頂上にかかるころ、アルが明るい声で言った。

「今年も3人で見れたね」

「ああ」

「エド、アル・・・」

ウィンリィがオレの体をぎゅっと抱きしめて、名を呼んだ。
顔は見えなかったけど、抱きしめてくる腕があるだけで充分だった。

「今年もよろしくね」

「よろしく!」

「今年こそはスパナアタックをくらわないようにしたいな」

「それはエドの心がけ次第でしょ?」

ぐっと腕で首を絞めつけられて言葉につまり、オレは何度も頷いた。

「ほんとにわかってんのかしら」

「ぐ、ぐるじぃ」

「ウィンリィ、死ぬから」

「そう?」

オレを解放したウィンリィがそのままするりと地面に降り、横に並ぶ。
何気なく見れば、手袋をはめた手をぽんぽんと合わせて嬉しそうに笑っていた。
はめるのには苦労したけど、この笑顔を見たら報われる。
オレまで嬉しくなって笑ったら、それに気づいたウィンリィが笑顔をこちらに向けた。

  ドクン

一瞬高鳴った鼓動に気づかれぬように何食わぬ顔で見返すオレに、ウィンリィ
は笑みを深くする。

  ドクン

片手でマフラーの端を持ち上げ、もう片方の手をひらりと動かし『ありがとう』というウィンリィから視線をそらして頷く。
気づいてくれるってのはいいもんだ。それもこんなとびっきりの笑顔を向けられるなら苦労は買ってでもすべきだろう。
現金なもので、来年こそは撃沈する前に準備をさせるんだという誓いは崩れ去った。
オレはやっぱりこの笑顔に弱い。気を抜くと表情まで崩れてしまいそうだった。
だから見せられない。
名前を呼ばれても振り向けない。
曖昧に返事をしたらふいに肩をつかまれ、思わず見てしまったウィンリィはオレを硬直させるほどにかわいい。
金縛りにあったオレに近づいて、ウィンリィが口を開いた。

「・・・アル、あっち向いてて」

「え?あ、うんっ」

アルが慌てて背中を向ける。わけがわからずウィンリィを見て、そして次の瞬間呼吸も言葉も奪われた。
唇に触れる柔らかなもの。軽くついばんだかと思うと、あっという間にそれは離れていってしまう。

キスされた。

実感は遅れてやってきた。
頬を染めつつこちらを睨むウィンリィに抗議されてから時間を取り戻し、1回まばたきをした。

「目くらい閉じてよ」

「・・・予告しろ!」

「したわよ。アルには通じたじゃない」

「ほんとかアル?」

「う、うん」

「あれでわかったのか?」

「なんとなく」

(嘘だろ・・・)

あっち向いてろって言われただけでわかったと言うのか?まるで以心伝心じゃないか。オレ以上にウィンリィのことわかってんじゃないのか?
余裕もなく嫉妬して、オレはアルを睨んだ。悔しい。弟といえどこいつだって男。メラメラと対抗意識を燃やすオレに、鎧の顔が呆れた様子を隠しもせずに言った。

「微妙なニュアンスをよみきれない兄さんが悪いんでしょ?ボクにまで嫉妬するのやめてよね」

「そうよ。嫉妬なんて無意味よ無意味!神様、お願いします。このバカに繊細さを与えてやってください〜」

「ボクからもお願いします!兄さんにまともなセンスを与えてやってください〜」

「オイ」

朝日に向かって勝手なことを言っていた二人は、オレが反撃する前に申し合わせたように駆けだした。
やっぱり仲良すぎだ。あいつら。
すぐに追いかけようとして、思いとどまる。
たまにはいいじゃないか。こういう追いかけっこも。
心の中で20数えた後、オレは一気に屋上から飛び降りた。

「んなろ、待て!」

笑いながら逃げていく二人の背中を捉える。
こちらに向かってベロを出す恋人と、ケツのあたりを叩いている弟に向かってダッシュをかけながらオレも笑う。

神様、オレからも一つお願いだ。徹夜したんだから叶えてくれよな!

オレを愛する人に、オレが愛する人に、たくさんの幸せを!














A HAPPY NEW YEAR!

皆様にとって幸多き1年でありますように!



愛を込めて 風子拝





Colorsの管理人、憧れの風子さんから頂いてしまいました・・・!
新年早々なんて素晴しいんだろう
読みながら私の口元は大変な事になりました!もう、色々と!!
小説は勿論、全てが素敵過ぎてどうしようとドキドキしております
風子さん、素晴しき新作小説を、本当に、本っ当にありがとうございました!