―――番外〜家政婦は三田〜―――


書類にサインをもらいに彼の上司の執務室に向かう。
ドアノブに手を掛けるもその動きが止まった。
中から声が聞こえる。
「先日の処理の件ですが…ご協力願えますか?」
「あぁ、喜んで」
……あの上司が“喜んで”? まさか仕事? んな馬鹿な。
音を立てないようそっと様子を伺うと
「え…」
ホークアイ中尉がマスタング大佐に
ランチボックスを差し出して、
マスタング大佐がホークアイ中尉からそれを受け取って
て、えぇ!?
愛妻弁当!? いやいやまだ結婚してないし。てか齢31にしてやっと身を固める決心を!?
てか、いつの間にそんな仲(大佐はともかく中尉が昼間からイチャつくなんて有り得ない)に!?

と思考していると
「ワン」
「うわっ」
後ろからハヤテ号に吠えられて驚きついでにドアを押してしまった。
「あ」
「何をしている」
大佐の冷たい視線。
「あ、いや…書類にサインをもらいに……」
と、視線を泳がせるも視界に入るランチボックスが気になって仕方ない。
その視線に気がついたのかホークアイ中尉が
「ハボック少尉もどう?」
とランチボックスから玉子サンドを取り出してくれた。
「え?」
「実はパンを大量にもらってしまって、その処理に大佐に協力してもらってるの」
大佐の方へ視線を向けると
「……」
俺が持って来た書類を無言で眺めている。
「頂いていいんですか?」
「えぇ、嫌じゃなければ少尉にも協力して欲しいくらい」
「そんなの良いに決まってますよ!」
俺は紙ナプキンに包まれた玉子サンドを受け取る。中尉の手料理なんて滅多に頂けるものでもない。
舞い上がる俺を諫める上司。
「上がったぞ」
有無を言わさず部屋を追い出され、手には書類と玉子サンド。
部屋の外ではハヤテ号が俺が出て来るのを待っていた。そして俺を一瞥すると何ごともなかったかのように帰っていく。
もしかして、大佐の邪魔をしたかったのか?……まさか。
苦笑しつつも玉子サンドを囓る。マスタードが利き過ぎていて少しだけ辛かった。



「……一つ減った」
「何がですか?」
「昼食」
「あぁ、玉子サンドは二つはいってますから」
「いや、そういう意味じゃ…」
「私の分あげますから」
「……」
その玉子サンドを手に取り一口。
「大佐」
口許を指で拭われる。
「子供扱いするのはやめたまえ」
「なら子供扱いされないよう振る舞ってください」
ならば
その細い腕を引き自分の胸の中に抱き留める。
「なら、そう振る舞うよ」
驚きに目を見張る彼女の頬に触れる。紅い唇を指でなぞりそのまま…
「こういうのが子供っぽいんですよ」
顎に冷たい金属の感触。
「私を一般の女性と同じように扱わない方が身の為ですよ」
固まっている私を余所に彼女は私の腕から逃れ愛用のブローニングをホルダーに戻す。
「一つ、言い忘れていた」
「なんですか?」
「好きだ」
私の一言に彼女は面食らったような顔をしている。そして神妙な面持ちで
「サンドウィッチが?」
いや、ここボケるところじゃないから。
「君が」
彼女は納得していない。
一般の女性のそれと異なる扱い方。ずばり直球ストレート。なのに彼女は信じない。むしろあろう事か
「大佐の言葉はいまいち信用に欠けますからね」
なんて言う始末。
仕方ない、今日は負けを認めよう。
苦笑いしつつランチボックスを開け、サーモンサンドを頬張る。サーモンならこのくらいのマスタードでも良いだろう。
「うん、旨い」
屈託のない笑顔。
それを見たホークアイ中尉は静かに微笑みを零す。しかしそれに彼の上司は気付いていない。
「どうぞ」
立ち上ぼるコーヒーの湯気に霞み、穏やかな日常は
「大佐!17地区で合成獣と思われる生物が!!」
いつもの慌ただしい日常と姿を変えるのである。
いや、この喧騒は穏やかな日常の一部。退屈でつまらない日常よりは何倍もいいし、何よりそんな日常などこっちから願い下げである。
「わかった。フュリー曹長、ハボック少尉と至急現場へ急げ。私も後から行く」
「了解しました!」
フュリーが執務室を後にする。と
「いつまで食べている気ですか」
「いいだろう? またこの前みたく見間違いで終わるかもしれないし」
「よくありません。見間違いじゃなかったらどう責任を取るおつもりで?」
黒い外套を押しつけられ仕方なく立ち上がる。
コーヒーを一気に飲み干し、机の引き出しから発火布を取り出す。
「仕方ない。現場に向かう。頼むぞホークアイ中尉」
「はい」

唸るエンジン音。
特徴のあるドアの締まる音にブラックハヤテ号は視線を向けた。
主人とその上司が車に乗り現場に向かう。
付いて行きたいのは山々だが今回は自分に出る幕はないと知っている。何よりあの二人はずっと背中を合わせ戦って来た。だから二人が揃っていれば間違いはない。
ただ今は、無事に事件が解決するのを祈りつつ待とう。


穏やかでも騒がしくても
それが日常ならば
それが世界。
雲が流れ風が凪ぐ。
青空の下
人はそれぞれの道を行くだろう。





皓露からメッセージが届いております

『 超鬱か超甘しか書けんらしい…偽者万歳★
 劇場版は31才だった…よね?
 「二人はずっと背中を合わせ戦って来た」って、一度裏切りましたよ ね 。気 球 で。
 「あれは監督が…」
 「ふっ」
 Endless(凡豆参照) 』

三つに渡っての素敵小説、どうもありがとうございました!
もう感謝しきれない程嬉しいです!!
お疲れ様でしたっ 本当にありがとうございました!!


そしてこのSSの数年後、大ヒットドラマ「家政婦のミタ」が放映されるという・・・